「東大助手物語」(中島義道著)を読んだ。

職場の上司がパワハラモンスターだったらどうするか。

しかも、それが自分の恩師で家族まで巻き込んできたら・・・

そんな極限状況の日々を克明に描ききった中島義道著「東大助手物語」を読んだ。

「うるさい日本の私」以来、著者の哲学エッセイのファンでありました。

これまでの著作にたびたび描かれた助手時代のいじめや理不尽体験を総まとめしたものかと予想

いやいや、「私小説」としてまったく新しく構成され、生まれ変わった物語です。

大学助手という立場は、いわば任期付き非常勤職員、「助教授」という地位を得るまでは一人前と認めてもらえず、その就職先の斡旋については上司である教授が絶対的権限を持つ・・・

こんな状況で著者は、教授の人格攻撃に日々さらされつつ、やがて妻にも奴隷的屈従を強いられる。

著者自身ももともと周囲に迎合できるような性格ではないから、表面上取り繕うことで教授に取り入っていくという「世慣れた」ことなど出来ない。

社会思想を研究する学者という俗世間から隔絶した存在であるはずの教授が、著者に(奇妙に歪んだ)一般常識をこれでもか、これでもかと押しつけてくる。

そう、学問の府の先導者が実は俗物モンスターだった。

大学という知識人の職場であっても、君子の交わりは水のごとく・・・・とはなりえない。むしろ、知性と存在のプライドをかけて著者はハラスメントに対峙し、ついに・・

しかし、エンターテインメント作品「文学部唯野教授」ではないから、殺傷沙汰はおきません。

味わうべきは作品中のひとつひとつの会話です。読んでいてヒリヒリと感じてしまうほど(こんなセリフ身内でもよう吐かんわ〜)

就職活動をする以前、ふと「学者になれたらいいな」などと(なんの努力もせずに)思ったこともある自分みたいな甘ちゃんには、強烈な世界・・・

近づかなくて(近づけなくて)正解!

寺田寅彦森毅などの学者エッセイとは対極に位置する本作

しかし読後感は爽快でした。