岡崎次郎「マルクスに凭れて六十年 自嘲生涯記」を読みました。

評論家の呉智英さんが紹介していた岡崎次郎マルクスに凭れて六十年 自嘲生涯記」を読みました。

青土社から1983年に出版された本ですが、長らく絶版で古書価もつり上がったまま、再版の見込みもなく、自宅に近い図書館にもなしということで、少し無理して購入しました。

著者は向坂逸郎訳「資本論」の実質的翻訳者ということで、副題に「自嘲生涯記」とあるように、自伝ではありますが、戦前・戦後を通じた社会主義運動の裏面史でもあり、マルクス主義系経済学者人物評ともなっています。

かの資本論も、岩波書店、青木書店、大月書店、社会思想社等々、様々な出版社から刊行され、原書の方も、ディーツ版、アドラツキー版等々、これまた多数あるようで、(素人がおいそれと手を出せるもんではありませんなあ)一学者が一思想家にまさに六十年かけて凭れることができたというのも、すごいですね、

著者はこの本の刊行の翌年、行方不明となり、マルクスに殉じたともいわれていますが、学究肌の堅物というわけではなかった。

旧制高校から帝国大学に進み、満鉄調査部を経て、九大教授、法大教授と肩書きからすればエリートですが、放蕩な生活を続けながら、戦中の思想弾圧、戦後の引き揚げ、窮乏と、何度となく生活の危機は訪れるのに、ギリギリのところですっと友人の助けや自らの機転で乗り切ってしまう、どこかおとぎ話のような人生。

他方、原稿の締め切りは律儀に守るタイプだったようで、出版社からの信用を失うことはついになかった。

そして、政治権力の労働者への平和的移行の可能性に触れたマルクスの演説に言及しつつも、自らはプロレタリアートの独裁と暴力革命に固執するという、なんともとらえどころのないお方です。

最寄りの図書館にあれば、一読をお勧めします。