大江健三郎「キルプの軍団」を読みました。

Kindleで購入したままだった大江健三郎「キルプの軍団」をやっと読了しました。

いや傑作ですね。気付くの遅過ぎですが。

はじめて書店で見かけたのは、岩波同時代ライブラリー版でした(初版は1988年)。購入するのに20年以上、読もうと決意するのにさらに3年以上かけてしまいましたが、読み始めてからは1週間、遅読の自分としてはかなり早く読めました。

著者の文章はかなり読み込むのに苦労することが多いですが、この本はかなり(それでも大江作品としては・・・ですが)読みやすいです。

著者自身の家族をモデルにしつつも(主人公は作家Oの息子のオーちゃん)、主人公が少年から青年へとインディペンデントな存在になる過程での感情、思考、行動、肉体の変遷などを、おそらくは1970年代の東京を舞台に大江流の視点で余すところなく描き出した、まさに教養小説です。

作品の初めからオーちゃんと忠叔父さんの間で交わされるディケンズ「骨董屋」の読み込みと解釈にまつわる議論は精緻なもので、「これがインテリ家庭で育った高校生の思考というものか」と驚嘆してしまいますが、この議論からもたらされる解釈の視点がストーリー後半のクライマックス(忠叔父さんの友人百恵さんとその夫原さん、そしてあるグループとの間で起こる・・・)まで見事に読者を引き込んでくれます。

ああ、オーちゃんの課外活動の設定は最初は意外に思えましたが、まさにそれでなければならないものでした。